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グルメ21 人との出会い at 記酒家、古宮

2010年10月02日 13:22

おいしいものを食べるのが死ぬほど好き。
できればその瞬間が永遠に続いてくれればいいと思っているのだけれど、一瞬はいつもはかなくて、とらえたと思った次の瞬間には指の先からこぼれ落ちている。
その瞬間を確認したくてもうひと口……
ぼくたちはいつも瞬間の中にいる。
未来なんて存在しないし、過去だって存在しない。
いつだって存在しているのは今という瞬間だけ。

でも、瞬間は姿を現したと思ったとたんにぼくの脇をすり抜けてしまう。
存在しなかったように。

未来も過去も存せず、現在は夢幻。

いったいどこに世界があるのか。
いったいどこにぼくはいるのか。

だから人は確実なものが欲しくって、未来に夢を見たり、過去を振り返ったりして自分というものを固化させようと骨を折る。
挙げ句、貧弱な思想を神格化しようとする。

でもね。
ぼくにはこのようにしか思えない。
「学問とは、虚栄の別名である。人間が人間でなくなろうとする努力である」(太宰治『斜陽』角川文庫より)

だからこう言ってくれた方がはるかに心地よい。
「この世の中に、戦争だの平和だの貿易だの組合だの政治だのがあるのは、なんのためだか、このごろ私にもわかって来ました。あなたは、ご存じないでしょう。だから、いつまでも不幸なのですわ。それはね、教えてあげますわ、女がよい子を生むためです」(同上)

でも、ぼくには子供が産めない。
だからぼくは絵を見たり音楽を聴いたり文学を読んだり哲学したり、食事する。

たとえば香港の記酒家でガチョウのローストを食べたとき。
たとえばソウルの古宮で全州ビビンバを食べたとき。
ぼくはたしかに瞬間を感じ、人を見た。

それはね、思想なんかじゃない、もっとずっとたしかなもの。
「こう生きなさい」とか「これこそ正しい」とか「人はすべからく」とか、時代や場所によってコロコロ変わるようなものじゃない。
そんなものたちをすべて捨て去ってなお残るもの。

あのガチョウのローストや全州ビビンバを発見した人はきっとそれを知っていたはずだ。
なぜって、そうしなくちゃ自分の奥底に眠る「人間」に気づくことはできないもの。

kogun.jpg
約30もの野菜が入っているという古宮の全州伝統ビビンバ

「人によって好みは違う」なんてウソだ。

なぜ西洋人は鯨の肉を見ると吐き気をも催すのか?
それは「鯨を食べることは野蛮である」という思想にとらわれているからだ。
自由に感じることができていないからだ。
自分の奥底に眠る感覚を信頼していないからだ。
人間を信じていないからだ。

もちろん、それもまた人間。
愛しい愛しい人間。

でも。
ぼくはそんな思想をすべて取り去った後になお残るものにこそ関心がある。
そこにこそ、価値を見る。
だから、思想をすべて取り去り、常識をぬぐい去り、ひたすら追究されたそんなものたちに、ぼくは最高の敬意を払いたい。

香港で、ソウルで、そんなものに出会うことができた。
ローストの概念が変わった。
はじめてビビンバを知った。
おかげで人に触れ、瞬間に触れ、ちょっとだけ、世界のありかがわかったような気がした。

この2軒は、香港とソウルを訪ねるたびに訪れたいと思う。
ありがとう。
本当においしかったです。

「川沿いにある屋敷のところまで行ってみた。これもぼくの散歩道だった。平たい石を投げてできるだけ幾度も水を切らせようとして遊んだ場所だ。まざまざと昔が蘇ってくる。ぼくはよくここに立って、水の流れを眺め、本当に不思議な予感をもって川下の方を見、この川の流れていく末にある地方はどんなふうのところだろうと想像をほしいままにしたが、むろんぼくの想像力はすぐ底をついてしまう。けれども構わずその先を考えていくとついには見ることのできぬ遠方を心に描いて呆然としたものだった。
――そうじゃあるまいか、ぼくらの立派な先祖たちは、あんなに狭い知識しか持たなくとも、あんなに幸福だったのだ。その感情、その文学はあんなに子供らしかったのだ。オデュッセウスが、はかるべからざる海原、限りなき大地というとき、それは実に真実で人間的で切々と引き締まっていて神秘的だ。
今日ぼくが小学校の生徒と一緒になって、地球は丸いなんて人まねしていったところで、それがどうだというのだろう。人間は、そのうえで味わい楽しむためにはわずかの土くれがあれば足り、その下に眠るためにはそれよりももっとわずかで事足りるのだ」(ゲーテ著、高橋義孝訳『若きウェルテルの悩み』新潮文庫)

香港記酒家(公式サイト。日本語ほか)
古宮(公式サイト。韓国語)

グルメ20 エスニックとエロティック at エレファント・キッチン
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